化学入門

II. 化学物質とは

1. 有機化学と無機化学の違い 2. 有機化合物とは 3. 有機化合物の命名法

化学物質とは、以下のような意味を含んだ言葉です

  1. 原子、分子および分子の集合体や高分子重合体のような、独立且つ純粋な物質
  2. 元素又は化合物に化学反応を起こさせることによって得られる化合物

日本における法令では以下のように定義されています

  • 労働安全衛生法 第二条 三の二
    「化学物質 元素及び化合物をいう」
  • 化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律 第一章 第二条
    「この法律において「化学物質」とは、元素又は化合物に化学反応を起こさせることにより得られる化合物(放射性物質及び次に掲げる物を除く。)をいう」

※1 元素:これ以上、化学的に分離できない成分。物質を構成する基本的な成分。
※2 化合物:2種類以上の元素からなる物質のこと。塩化ナトリウム(NaCl)など。1種類の元素からなる物質を単体という。酸素(O2)など。

1. 有機化学と無機化学の違い

 「有機の」という意味の英語「organic」はもともと「生体の、組織の」という意味です。「無機」は否定の接頭語in-を使った「inorganic」で「生体に関係ない」という意味でした。以前の化学者は、動植物やそれらから作る酒や染料など「生命から得られる物」を有機物と呼んでいたのです。しかし有機物と無機物の間には特別な境界があるわけではなく、いずれも原子が集ってできている物質であることがわかってきました。
 現在は、主として炭素原子を骨格としてできている化合物を有機化合物、そうでないものを無機化合物とよんでいます。
 但し、一酸化炭素、二酸化炭素、シアン化カリウムなどの簡単な構造の化合物は、炭素が主体であるにもかかわらず、一般に無機化合物として分類されています。又、ダイヤモンドや黒鉛、炭素繊維などは、炭素そのものですが、これらも無機化合物の一員とされています。

2. 有機化合物とは

 無機物の性質は、どの元素をどれくらいの割合で含んでいるかによって決まります。一方、有機物の性質は、元素の種類ではなく、元素のつながり方の違いによって作り出されています。
 有機化合物の構成元素は、炭素を主体として、水素や酸素、窒素、硫黄、ハロゲンなどを含み、あまり多くありません。ごく一部の元素からできているにもかかわらず、有機化合物の種類は非常に多くなっています。これは、炭素同士がお互いに共有結合でいくつもつながることができるからです。更に、炭素同士が結合するときに、単結合だけでなく、二重、三重に結合することもできるからです。また、複数の炭素原子が鎖状にも環状にもつながります。このように炭素原子のつながりは多種多様であり、結果として無数の有機化合物が生まれることになります。

有機化合物の例

メタン、プロパン、シクロプロパン、メタノール、エタノール、酢酸、フェノール、安息香酸、サリチル酸、ピクリン酸、アニリンなど
ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン、プラスチックなど

3. 有機化合物の命名法

 以前は、物質には勝手に名前がつけられており、増え続ける有機化合物の命名に統一したルールが必要になりました。化合物を系統的に命名するには、IUPAC(アイユウパック、International Union of Pure and Applied Chemistry:国際純正・応用化学連合)の規則があります。ただし、メタンなど命名法以前から知られていた物質は、現在も慣用名でよばれることが多いようです。

 例:塩化ナトリウムのIUPAC名→塩化ナトリウム(sodium chloride)
   ホルムアルデヒドのIUPAC名→メタナール (methanal)

 しかしながら、公的な命名法も変更になることがあるので、注意を要します。

 例:第十四改正日本薬局方→第十五改正日本薬局方
   マレイン酸クロルフェニラミン
      第十四改正日本薬局方 ; マレイン酸クロルフェニラミン
                   Chlorpheniramine Maleate
      第十五改正日本薬局方 ; クロルフェニラミンマレイン酸塩
                   Chlorpheniramine Maleate

また、IUPAC命名法は論文を書く人のためには適当であるが、情報検索のための命名法としてはCASのChemical Abstracts Index Names が適当である、との指摘もあります。