化学入門
1.元素と原子、分子 2.化学式 3. 化学変化と物理変化 4. 化学反応 5. 人工的に化学物質をつくりだす時代
自然にあるものを調べるのが自然科学です。高校の理科では、物理、化学、生物、地学の4教科があります。
これらの中で化学は、様々なものが何からできているのか、どんな性質を持っているのか、どのように変化するのかを調べる科学です。「もの」とは、椅子やコップなど「質量と体積」を持つもので、電気や音は「もの」ではありません。その「もの」をつくっている材料は「物質」です。コップというものは、ガラスという材料でできています。
化学とは、物質の構造・性質ならびに、これら物質相互の反応を解き明かしていく分野です。
人類は古い昔から、ギリシャ哲学におけるアリストテレスの四元素説「すべての物質は水、火、土、空気からなる」などと考えていました。現在では、万物(化学物質)を構成する基礎的な成分(要素)である元素(げんそ)は、118種類知られています。
原子番号113番は日本で発見され、2016年11月に、認定機関である国際純正及び応用化学連合(IUPAC)によって「ニホニウム」という名称が公式に認められました。
化学は、
の二つの面をもって発展してきました。化学が進歩して、「物質の性質」と「構造」の関係は随分よく分かってきました。しかし、予想もしない性質をもった物質がたまたま出てきて、それが利用されるようになった例は、私達が使っているものの中にも沢山あります。以下はその例です。
物質を分離していき、どんな手段を用いても各元素のそれぞれの特性を失わない範囲でこれ以上細かくすることができない最小の微粒子を原子といいます。原子(アトム)という言葉は、それ以上分けることが出来ないもの、というギリシャ語に由来しています。その原子の集合体が分子です。
原子は構造的な概念であるのに対して、元素は特性の違いを示す概念といえます。
2個以上、複数個の原子が結合してできた粒子を分子といいます。2個の水素原子(H)と1個の酸素原子(O)が結合して1個の水分子になります。そして、この水のように、異なった種類の原子間結合をした(化学)物質を化合物といいます。
わたしたちの体も食べ物も(化学)物質、つまり原子・分子からできています。人体の機能も、(化学)物質の変化、原子や分子の働きによっておこる現象のひとつです。
原子は、およそ10分の1nm(ナノメートル)の粒子でできており、原子が結合した分子の大きさは、その中の原子の数・種類・並び方で変わります。身近な物質の変化、人間の体の中で起こっていること、更には地球や宇宙で起こる現象は、原子・分子の変化として初めて説明できることも多いのです。この原子・分子の世界が、化学が最も得意とする領域です。
物質は言葉で表すより、元素記号で表わす方が便利です。物質を元素記号を用いた式で表わしたものを「化学式」と呼びます。その物質に含まれる元素の種類や割合、原子の結合状態、化学的性質などを表すことができ、化学式により、物質の構造、性質、反応を理解することが可能です。
化学式には、分子式、示性式、構造式などがあります。
分子をつくっている原子の種類と数(元素記号の右下に小文字で記す)で表わした式。
分子式の中から官能基を区別して表わした式であり、分子の性質や反応性がわかります。構造式を簡略化したものです。
分子内で、原子同士がどのように配列、結合しているかを短い線(−)で表わしたものです。平面構造式と立体構造式があります。
分子式では構造に二つ以上の可能性が生じてしまう物質も、 示性式や構造式で表すと区別することができます。
実際の分子のかたちや化学結合の角度などを盛り込み、構造式を立体的にしたのが分子模型です。
ものの変化には2種類あります。化学変化と物理変化です。
水素を燃やすと水ができます。この過程では、水素分子中の水素原子と水素原子、及び酸素分子中の酸素原子と酸素原子との化学結合が切れて、2個の水素原子が1個の酸素原子と新しい化学結合を形成することによって、水分子となります。 このように、互いに結びついた原子やイオンが衝突するなど作用し合って、元の物質とは別の物質に変化したことを化学変化といいます。
水は温度を下げると氷に変化し、0℃で氷が溶けて液体の水となり、温度を上げてほぼ100℃で気体の水(水蒸気)に変化します。しかし、水分子そのものは、2個の水素原子と1個の酸素原子との化学結合ということに変化はありません。このように化学結合の変化を伴わないものを物理変化といいます。
化学反応は化学変化と同義ですが、特に反応の過程を重視するときに化学反応といいます。化学反応式により、物質の変化や物質の性質を表すことができます。
変化前の物質はブドウ糖と酸素で、変化後の物質は二酸化炭素と水です。人間は食事からブドウ糖を得て、二酸化炭素と水蒸気を肺から放出し、そのエネルギー差をATP(アデノシン三リン酸)の形で生体に蓄えて生命活動に利用しています。このように化学反応は、人体の中でも絶えず起こっているのです。
原子間の結合の組合せが変化することで様々な物質が生まれてきます。
人間は古代よりさまざまな薬草を利用して、さらには薬として植物を栽培するようになりました。必要な成分を人工的に合成できれば、薬を安定供給できるようになります。そこで、天然化合物の構造が調べられ、アスピリンなどが合成できるようになりました。さらに近年は、コンピュータを利用して一から新しい薬品をつくる方法が発展してきています。
化学反応のしくみを研究し、理解することは、人類にとって極めて大切なことです。
化学ってそういうこと! −夢が広がる分子の世界 編集:(社)日本化学会 発行:(株)化学同人 2003